ZESDA's blog

グローカルビジネスをプロデュースする、パラレルキャリア団体『NPO法人ZESDA』のブログです。

プロデューシング・システムを創ることで、日本経済の活性化を目指す、NPO法人ZESDAのブログです。


Dr. Robert Eldridgeより「トモダチ作戦の省察と災害協力の未来」 Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第35回セミナー開催のご報告

NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。


5月9日(火)の朝7:30から開催した第35回PIPDセミナーは、第28回セミナーで「沖縄問題の真実―米国海兵隊元幹部の告白―」を、第29回セミナーでは「2016年米国大統領選を理解するために」をテーマにお話いただいたDr. Robert Eldridgeを改めてゲスト・スピーカーとしてお招きし、「トモダチ作戦と今後の災害協力(Reflecting on Operation Tomodachi and the Future of Disaster Cooperation) 」をテーマにお話し頂きました。なおDr. Eldridgeは、在日米軍沖縄海兵隊司令部の元高官であり、東日本大震災発生時に米国海兵隊が展開した「トモダチ作戦」の成功に主導的役割を果たされました。現在、日米関係、沖縄問題、東アジア情勢、防災関係などを中心に様々なメディアを通じて出版、執筆、翻訳活動を展開されています。

◆人と人との絆の構築こそ、最重要な災害対策
冒頭、Dr. Eldridgeは東日本大震災時の経験を振り返りながら、「次の大災害に対する最も大切な備えは個人的な人間関係を構築することだ」と強調されました。大災害への対応は、自衛隊、自治体など、一つの組織だけでは限界があり、他の組織との切れ目ない、効率的・効果的な協働が必要です。そのためには、培われた「個人的な人間関係」が重要であり、Dr. Eldridgeは、震災時に、日米の知り合いや関係者をつなぎ、円滑な協働を生み出すことに尽力されました。
また「こうした個人的な関係を築き、将来における協働を生み出し、育てていく機会として、Crossoverは非常に良いモデルです」と、私たちの活動を高く評価して下さいました。

◆災害時の他国からの救援に関する日本政府の認識について
Dr. Eldridgeは、海兵隊が日本の災害対応に協力したのは東日本大震災における「トモダチ作戦」が初めてではなく、古くは米国海軍が協力した1923年の関東大震災に始まり、戦後間もない1948年の福井地震、1959年の伊勢湾台風、そして1964年の新潟地震等、長きに亘る実績があることを紹介されました。

しかし、1964年の新潟地震以降、1995年の阪神淡路大震災まで約30年の間、大きな災害が無かったことから、日本の危機管理は脆弱になってしまっていた、と指摘されました。このことは、Dr. Eldridgeが神戸大学大学院生時代に被災者の一人となり、また復興ボランティアとして救援活動に参加した阪神淡路大震災において、日本政府が海外からの支援受け入れに多くの時間を要したことに表れていた、と振り返られました。

この時の経験を踏まえ、Dr. Eldridgeは2006年から災害対応における海兵隊と日本政府・自衛隊との迅速な協力を可能とするための相互支援協定の必要性を多くの政治家、政党に説いて回りました。激震災害発生時であっても他国は主権国家である被災地国政府の要請がなければ軍隊を派遣して支援活動を行うことはできませんが、事前に協定を結んでおけば、必要なプロセスを大きく短縮し、迅速に活動を開始することができます。
しかし「日本だけでできる」という考えばかりで、海外からの救援が必要とは考える人は皆無であったそうです。Dr. Eldridgeは、2011年の3月10日、まさに震災の前日にも、総理官邸に対して同様の提案していたものの、それは受け入れられないまま、東日本大震災は起こってしまいました。
もし協定が事前に締結されていれば、アメリカ海兵隊が活動を開始するまでに1週間ではなく、2,3日でできたのではないか、とDr. Eldridgeは述べられました。

◆日本の災害対応について
Dr. Eldridgeは多くの課題があったものの、「ともだち作戦」が最終的に成功に終わったのは、日本の優れた社会基盤のお蔭であったと指摘されました。具体的には、①パニックに陥らず秩序を保つ国民性、②迅速に医療やボランティアが提供される社会的インフラの強さ、③自衛隊の能力の高さ等を挙げられました。特に、自衛隊については、被災地で活動する多くの隊員が東北出身であり、彼らもまた被災者である可能性が高いにもかかわらず、素晴らしい活動ぶりであったと高く評価されていました。もしこれらの要素が、多くの途上国のように一つでも欠けていれば、より混沌とした状況になっていたと思われるとのことです。こうした基盤の上で、アメリカ海兵隊の活動が位置づけられるだろうと話されました。
一方、課題についても紹介いただきました。まず、自衛隊については、彼らの国内における活動は素晴らしい一方、他の組織、具体的にはアメリカ海兵隊との協働については、改善の余地が大いにあったということです。アメリカ海兵隊は、東アジアにおいて、スマトラ沖地震への対応を始めとして、他組織と協働して災害対応にあたる豊富な経験がありますが、自衛隊はその能力を十分に把握し、活用したとは言えないと指摘。この点について、アメリカ海兵隊の幹部は「今回の災害対応では、我々の能力の1%程度しか発揮されなかった」と述べたとのエピソードも紹介されました。
Dr. Eldridgeは、その原因として、日本政府及び自衛隊が、アメリカ海兵隊の能力を十分に理解していなかったことを挙げられました。また、双方の意思決定や作戦の立て方の違いについても指摘されました。自衛隊は事前に綿密に作戦を立て、また想定される結果も事前にシナリオを作ったうえで、それに則して上意下達で活動が展開される一方、海兵隊は、作戦の前提となる仮定や想定の一つ一つをその都度議論し、検証していくプロセスがあるということです。

ここで参加者から、「自ら立てた前提や計画に縛られてしまう」という多くの組織に見られがちな傾向が海兵隊の間には見られない背景について、質問がありました。これに対してDr. Eldridgeは、「海兵隊は独自の養成学校を持たず、理論先行ではないこと」、「メンバーの多様性が確保されており官僚組織的な意思決定がなされにくいこと」を理由として挙げられました。一方、自衛隊については、ほとんどの幹部は防衛大学校を卒業しており、均一の環境の中で育ち、意思決定に関する多くの前提が共有されてしまっていることから、独創的な思考や議論は難しいのではないか、と指摘されました。

自衛隊海兵隊の協力について
このように、東日本大震災におけるアメリカ海兵隊の活用は必ずしも十分ではない部分があったにせよ、自衛隊との協働は、故君塚栄治大将の指令の下、海兵隊自衛隊が、その属人的つながりによって相当程度円滑になされていたことを示すエピソードを共有してくださいました。

Dr. Eldridgeは沖縄海兵隊勤務当時に、東日本大震災時の自衛隊の指揮官であった君塚大将と知己を得たそうです。またアメリカ海兵隊のGlueck司令官は日本駐在経験が4回あり、君塚大将とは旧知の仲、そしてスマトラ沖地震に対応した経験もありました。そんなGlueck司令官が日本に異動してきたのは東日本大震災の発災2ヶ月前であったということです。そのように豊富な経験があり、かつ、自衛隊の指揮官と旧知の仲である者がこのようなタイミングで海兵隊の司令官として異動してきたことは奇跡と言える、とDr. Eldridgeは振り返られました。

◆今後の課題ついて
Dr. Eldridgeは次の大災害に対する備えとしてについても、考えを述べられました。
冒頭指摘されたとおり、個人的な人間関係を広く構築していくことがまず大切であるとのことです。そのため、Dr. Eldridgeは高知県和歌山県三重県静岡県等の自治体や、病院や消防職員との公式・非公式なネットワークを築いています。海兵隊との協働について働きかけても反応が鈍い場合には、これまで築いてきたネットワークを活かし、その自治体選出の有力政治家の影響力にも頼ることで望ましい結果を得ることが出来た、とのエピソードも紹介して下さいました。
また、海兵隊が救助・支援に当たった気仙沼大島の被災者を、他の自治体の災害対応担当者とつなげるべく、被災者による講演会を沖縄で開催するなど、人と人をつなげるような活動も精力的にされているとのことです。この中では、自治体の災害対応担当者は、災害発生時には、自分自身及びその家族が被災者となる一方で、同時に災害対応にも当たらなければならないことから、日常的に訓練されていることが重要であることなどが共有されています。
さらに、外国人留学生についても、彼ら彼女らに災害対応の知識があれば、バイリンガルとして被災外国人の誘導や、外部からの支援の受け入れに大きな役割を果たすことができると指摘されました。

◆Dr. Eldridgeが出版されている書籍ついて
最後に、Dr. Eldridgeが執筆又は翻訳された本を紹介していただきました。
一冊は、小説家である高嶋 哲夫氏が書いた震災関係の書籍の英訳版である「Mega quake 」です。日本の東日本大震災における対応について書かれたこの書籍を英訳することで、①途上国など災害対応が未熟な国に教訓を活かすこと、②国際機関・組織が日本の特性を理解し、それにより来たるべき救援を円滑にすること、を目的としているとのことでした。
さらに、今回の講演のテーマである東日本大震災関係として、「次の大震災に備えるために―アメリカ海兵隊の「トモダチ作戦」経験者たちが提言する軍民協力の新しいあり方」、「トモダチ作戦 気仙沼大島と米軍海兵隊の奇跡の“絆"」の2冊を紹介してくださいました。特に後者については、まだ2月に発売されたばかりですが、今回の講演で語られなかった各関係者との調整の内実を含め、Dr. Eldridgeの当時の活動内容が詳細に記されているとのことです。
なお、Dr. Eldridgeはご自身の震災関連の著作の印税を原資に、「大島っ子の夢と将来基金」を設立、教育、文化、スポーツ、国際交流等の分野で気仙沼大島の子どもたちの活動に支援をする団体や個人に補助金を交付する活動も展開されています。

会場は、リーダーシップ、先見性、献身、そして忍耐力を持ってトモダチ作戦を成功に導いてくださったDr. Eldridgeと米国海兵隊の皆さんへの心からの感謝の気持ちを込めた大きな拍手に包まれました。


今回も株式会社クリックネット社長の丸山剛様、並びに社員の皆様のご厚意で、セミナー会場として同社が主宰する「まなび創生ラボ」をお貸し頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。有り難うございました。

5/27(土)於:渋谷「プロデューサーシップ、ローカルコンテンツと地方創生」シンポジウム開催のお知らせ

平素お世話になっております皆様
薫風のみぎり、いかがお過ごしでしょうか。NPO法人ZESDA代表の桜庭です。

このたび、5月27日(土)研究・イノベーション学会、映像情報 メディア学会と共催で、「プロデューサーシップ、ローカルコンテンツと地方創生」をテーマに、各界超一流の「プロデューサー」の皆様とシンポジウムを開催いたします。

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研究・イノベーション学会、映像情報メディア学会 合同シンポジウム
「プロデューサーシップ、ローカルコンテンツと地方創生」

◆お申し込みはこちらから◆
http://peatix.com/event/237670


企業の大小を問わず、チャレンジ精神や起業環境の整備が叫ばれる昨今。
地方創生のため、日本経済の真の活性化の上でもアントレプレナーシップは重要です。
しかし、イノベーションは起業家だけが興してきたものでしょうか 。


起業環境は、補助金や投資(カネ)だけでは、整いません。
チャレンジ精神も孤独ではすぐに力尽きます。
挑戦者達が成功するまで、人脈や信用(コネ)、経験・技術・情報 (チエ)を、
粘り強く、戦略的に注いでくれる人々がいなければ、イノベーションは成功しないのではないでしょうか。


今回のシンポジウムでは、イノベーター自身には敢えてスポットを当てません。
リスクやコストを共有しつつ、「コネ」や「チエ」を注ぎ続けて、彼らを成功させてきたイノベーションのカタリスト(媒介者)達の 活躍に着眼します。


なかでも、成功に必要な人間関係や段取りを組み立てる「プロデューサー」達のご経験を、皆様と共有していこうと考えています。


「プロデューサー」の思考や行動は、成功を決定的に左右するもの でありながらも、「主役」であるイノベーターの英雄譚の影に隠れがちです。そして、複雑で多岐にわたり、プロデューサーの個性によってプロデュースのスタイルも異なります。


今回のシンポジウムでは、業界人ならば誰もが知る、実績・経験の豊富な先輩方からお話を伺います。
登壇者一覧をご覧いただければお分かりのとおり、きわめて豪華な顔ぶれになっております。
私もファシリテーターのひとりとして、皆様と共に、学びを得て参りたいと思います。

イノベーションは、有能な起業家に資金を渡せば興るものではありません。
そして、プラットフォームを設ければコネやチエが自動的に起業家に行き渡るものでもありません。


ローカルコンテンツの真の価値を引き出し、地方創生を実現するためには、イノベーションに関わるあらゆる登場人物が、個人の見識や信用力によって、有機的に連動しながら、エコ・システム全体を捉える「個人」こそ が重要ではないでしょうか。


そう、今、日本社会には、誰かをプロデュースする個人こそが求められていると強く思います。


皆様が、ご自身をイノベーション・エコ・システムの参加者として捉えなおす機会となり、ひいては、「プロデューサー」として覚醒され、身近にいるチャレンジャー達を「プロデュース」していってくださるきっかけになりますよう、シンポジウム登壇者一同、当日まで誠心誠意準備を行って参ります 。


当日お会いできますことを楽しみにしております。
どうぞよろしくお願いいたします。



研究・イノベーション学会、映像情報メディア学会 合同シンポジウム
「プロデューサーシップ、ローカルコンテンツと地方創生」

◆お申し込みはこちらから◆
http://peatix.com/event/237670



NPO法人ZESDA代表
桜庭大輔

第186回知的財産マネジメント研究会での講演

2017年4月15日都内会議室にて第186回知的財産マネジメント研究会が開催され、
当法人代表の桜庭が以下の2テーマで講演を行いました。

テーマ①:イノベーションを導く『カタリスト』と『プロデュース理論』について

テーマ②:英国の産学連携〜informal networkの経営手法について留学からの考察

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テーマ①では、現在実際に活躍している起業家達を例にとりながら、
「プロデュース」してきた「カタリスト」の存在と役割について言及し、
カタリストを現在の日本の枠組みでどう生み出してイノベーションを創出していけばよいのか、いくつかの提案を行いました。

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講演後は、提案の実現性やそれを取り巻く日本の環境についての質疑応答や情報共有、ディスカッションが行われました。

テーマ②では、桜庭自身の英国留学経験を元に、
現在の英国エリートはどのように「コネ・カネ・チエ」を集積し、
自らのそして国全体の地位を磐石にしているのかという点に関する考察を行い、
そこから得られる日本の産学連携強化のヒントについて述べました。

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ZESDAはこれからもイノベーションの「プロデュース」に関する
ワークショップや講演等を行って参りますのでよろしくお願い致します。

SAKURA COLLECTION 2016-2017 in YOKOHAMA

2017年3月26日(日)、横浜港大さん橋国際客船ターミナル CIQ プラザにて、日本文化に根ざした服飾デザインを東南アジアの学生デザイナーの手でアレンジし、世界に発信することを目的としたファッションショー「SAKURA COLLECTION 2016-2017 in YOKOHAMA」が開催されました。

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★各国モデル・デザイナーの集合写真

私たちZESDAスタッフは、日本の技術や文化と世界のニーズを繋げるプロデューサーの支援・育成を通じた日本企業のグローバル競争力を強化する活動の一環として、昨年夏以降、「SAKURA COLLECTION 2016-2017 in YOKOHAMA」のサポートをして参りました。
具体的には、会場設営や当日運営、22日に開催されたプレイベントのサポートのほか、イベント開催のための資金調達(クラウドファンディング)、モデル・デザイナーへの出演交渉、公式ホームページの改善等に取組みました。

1. クラウドファンディング
ZESDAチーム全員にとって初めての取り組みということもあり、結果的に目標金額には届きませんでしたが、それでも多額の資金調達に成功し、仲間と最後まで頑張り抜くことが出来たことは今後の活動における大きな財産になると思っています。次回のクラウドファンディングでは、必ずや目標金額を達成したく思っています。
なお、クラウドファンディングにおいてはCAMPFIREの渡邉様に大変お世話になり、深謝申し上げます。

2. モデル・デザイナーへの出演交渉
ZESDAの活動成果は、フィリピン代表のモデルとデザイナーの出演の実現です。
当初はタイ、インドネシア代表の出演交渉も担当しましたが、慣れない交渉が難航しZESDAスタッフによる交渉は成立しませんでした。
一方、フィリピン代表に関しましては、ZESDAスタッフが持っている人脈を生かし、先方との細目な連絡・交渉が実を結ぶ結果となりました。
今回の実績は、ファッションショー主催者(Producer)と海外モデル・デザイナーをZESDAスタッフによる「Introduce」で繋ぐことで、日本文化に根ざした服飾デザインを海外に発信することに貢献出来たことを意味しており、私たちZESDAの活動理念・目標の実現でもあります。

3. 公式ホームページの改善
SEを本業とするZESDAスタッフが、レイアウト変更を含めた作業を実施し、下記URLのページに仕上がりました。
http://www.sakuracollection.com/


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★ZESDAが出演交渉したデザイナーと(右から二人目)

異なった業界・職種に本業を持ち、考え方や価値観、年齢が様々なスタッフがボランティア活動として一つのプロジェクトを遂行する難しさを感じつつも、スタッフが自ら動き、自ら生み出し、自ら楽しみ、私たちZESDAの“VALUE”の実践を通じてチームとしての一つの「カタチ」を得ることができたという意味で、今回のプロジェクトは大変有意義であったと思います。

今後、ZESDAとして様々なプロジェクトを進めて参ります。応援の程、宜しくお願い申し上げます。

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★力仕事も楽しく!当日の設営等もお手伝いさせていただきました。

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★主催者との打ち上げ

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★半年間いろいろありましたね。

Mr. Nicolas du Boisより「教育改革の提案 〜南アフリカで塾モデルが機能する理由〜 」 Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第34回セミナー開催のご報告

NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。


4月1日(土)に開催した第34回PIPDセミナーは、Nicolas du Bois氏とAlexei du Bois氏のお二人をゲストスピーカーとしてお招きしました。お二人カナダ生まれの兄弟であり、イギリス、南アフリカへと移り住み、今は南アフリカに日本の「塾」をモデルにした取組みを始めようと共に尽力しています。お二人からは、日本と南アフリカの教育システムを比較しつつ、南アフリカでなぜ日本の「塾」をモデルとしたビジネスが大きな可能性を持っているか、お二人のビジョンやビジネス・プランと併せてお話しいただきました。なお、英国のオックスフォード在住のAlexei氏は、ビデオ会議のアプリを使ってセミナーに参加、お話を頂きました。

◆日本の教育システムについて
まず、Nicolas氏からは、2011年から3年間、JET(Japan Exchange and Teaching) Programへの参加を通じて、日本の静岡の高校で英語を教えていた時の経験が共有されました。JET Programとは、主に教育分野でキャリアを歩みたい方を海外から募り、日本の公立学校で英語を中心に教鞭を執る経験を提供しているプログラムです。
JET Programの受入人数は近年減っていましたが、東京オリンピックを見据え、日本人の英語力向上というニーズに応えるべく、再び増加傾向にあるそうです。また、このプログラムにより外国人講師が派遣される学校は、これまで主に地方都市が多かったそうですが、最近では東京や大阪のような大都市にも派遣されるようになっているそうです。

このプログラムに参加した経験から、Nicolas氏は日本の公教育について「平等性」が非常に高いと感じたそうです。例えば、教材費など多少の費用は要するものの、基本的に無料であること。設備についても公費により一定のレベルが保証されていること。そして教師についても一定の質が保証されており、レベルが非常に高いこと。また優秀な教師が教え易い学校ばかりをえり好みしないよう人事異動により一定期間ごとに配置転換があること等が、学校間の質の平等化に寄与しているのではないか、と述べられていました。

◆日本の教育システムについてディスカッション
続いて、Nicolas氏のプレゼンテーションも踏まえながら、参加者同士で「もし、もう一度小学校・中学校の教育を受けられるなら、どんな教育を受けたいか」をテーマに、4,5人の小グループをつくって英語で話し合った後、会場全体で内容を共有しました。
「国際的な感覚」や「コミュニケーションスキル」、「何が真実かを見極められる力」など、現代の社会に対応して必要なスキルや能力が挙げられる一方で、「そもそもなぜ勉強が必要なのか、どんな意味があるのか」を学びたかったという意見や、「学校は子どもに安心できる時間や場所を与えられることが必要」という意見も出されました。

南アフリカの教育システムについて
ディスカッションの後、スピーカーのお二人が受けた南アフリカの教育システムについての紹介がありました。まず南アフリカの国全体のGDPは日本の7分の1程度、人口は半分程度(5,200万人)ですが、一人あたりのGDPは6,600USドルとアフリカ諸国の中では相当豊かな国です。しかしアパルトヘイトの影響もあり経済格差が大きく、学校についても親の所得に応じて5段階に分けられているそうです。

最も所得が高い層が通う学校と、最も所得が低い層が通う学校の様子が写真付きで紹介されました。所得が高い層が通う学校には机や椅子はもちろん、広大なグラウンドやテニスコートがあり、その質は日本の公立中学・高校すら上回るように見えます。一方で、所得が最も低い層が通う学校の写真を見ると、非常に小さい教室で、机は先生用のものだけ、冷暖房もないために冬は非常に寒いなど、両者には大きな差があることが窺われました。

最も所得が高い層が通う学校は、アパルトヘイト時代には白人しか通うことができなかったそうです。現在はそのような区別はありませんが、南アフリカの所得水準からするとかなり高額の年間約40万円の学費が必要となることから、実際に通うことのできる層はごく僅かとなります。

教育の質についても、日本の教師は国家資格という最低限の基準を必ず満たしている一方で、南アフリカでは75%の教師は基準を満たしておらず、また公的な人事異動システムもないことから、基準を満たす優秀な教師は、待遇がよく、教え易い、優秀な生徒がそろう一部の学校に集中する状況となっているそうです。地域の経済・社会的環境が学校教育の質の差に直結しており、学校間で提供される教育の質は日本と比較にならないほど大きなものとなっているとのことです。

実際、教育の成果の一つである学力について、発展途上国間で数学と科学の点数を比較した場合、南アフリカは15歳時点でデータをとっているにもかかわらず、14歳時点でデータをとっている他の国と比較しても相当低くなっています。さらに、所得によって分けられた5段階の学校群ごとに平均の点数に大きな開きがあり、また、公立と私立の間でも大きな格差が存在しています。また、段階別の学校群ごとの大学進学率にも大きな差があります。大学への進学率の差は、後に就業率の差となって将来の所得や生活の安定にも大きな影響をもたらすとのことでした。

◆「塾」プロジェクトについて
このような南アフリカの教育事情を背景として、以下の理由からNicolas氏とAlexei氏は日本の「塾」をモデルとしたビジネスが成立すると考えたそうです。

・沢山のnon-profitの取組みの存在
まず南アフリカには、既に沢山のnon-profitの教育に関する取組みがあるそうです。しかし、お二人はnon-profitモデルではなく日本の塾のように、お金を払ってもらう塾モデルを採用しました。これは、non-profitモデルでは継続的な収入がないため予算制約があり、救うことができる学生の数には限りがあること、また、無料で受ける教育よりも、たとえ少額でもお金を払って受ける教育の方が高い効果が得られるという研究があることを踏まえてのことです。それぞれが支払う額自体が少額であっても、一度の授業で20人~30人程度が参加すれば、塾全体では一定の収入が確保できるだろうと考えているとのことです。また、このようなモデルは他の発展途上国でも成功例があるとのことです。

・大学に進学できない理由
低所得層が大学に進学できない理由の一つである、大学入試の各科目の最低基準を満たすことすらできない、という問題に対応するために、お二人は、公教育とは別の補足的な教育を提供できれば、中・低所得層であっても大学に進学できる可能性が高まり、将来の安定的な収入につながるのではないかと考えています。なお、私立学校を設立するという選択肢を採用すると公立学校から優秀な教師を奪ってしまうという問題が発生するところ、塾モデルであれば、公立学校と補完的な関係を保つことができるといえます。

・成果測定、広報が可能であること
日本の塾や予備校では、「東大○名合格!」などの実績がアピールされています。南アフリカでは、多くの学校はこのような実績の測定や広報をしておらず、教育の効果が不透明と言えます。

このような中で日本の塾のように実績を測定し、広報することができれば、それは大きなアドバンテージになるだろうと述べていました。さらに、彼らは小中学生ではなく高校生を対象とした塾を開くことを考えていますが、この実績が測りやすいという点から、高校生を対象とするという選択をしたそうです。

今回は土曜日の開催ということもあり、セミナー後に懇親会を開き、参加者皆でNicolas氏を囲んで教育談義に花を咲かせました。


今回も株式会社クリックネット社長の丸山剛様、並びに社員の皆様のご厚意で、セミナー会場として同社が主宰する「まなび創生ラボ」をお貸し頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。有り難うございました。