ZESDA's blog

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Dr. Robert Eldridgeより「トモダチ作戦の省察と災害協力の未来」 Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第35回セミナー開催のご報告

NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。


5月9日(火)の朝7:30から開催した第35回PIPDセミナーは、第28回セミナーで「沖縄問題の真実―米国海兵隊元幹部の告白―」を、第29回セミナーでは「2016年米国大統領選を理解するために」をテーマにお話いただいたDr. Robert Eldridgeを改めてゲスト・スピーカーとしてお招きし、「トモダチ作戦と今後の災害協力(Reflecting on Operation Tomodachi and the Future of Disaster Cooperation) 」をテーマにお話し頂きました。なおDr. Eldridgeは、在日米軍沖縄海兵隊司令部の元高官であり、東日本大震災発生時に米国海兵隊が展開した「トモダチ作戦」の成功に主導的役割を果たされました。現在、日米関係、沖縄問題、東アジア情勢、防災関係などを中心に様々なメディアを通じて出版、執筆、翻訳活動を展開されています。

◆人と人との絆の構築こそ、最重要な災害対策
冒頭、Dr. Eldridgeは東日本大震災時の経験を振り返りながら、「次の大災害に対する最も大切な備えは個人的な人間関係を構築することだ」と強調されました。大災害への対応は、自衛隊、自治体など、一つの組織だけでは限界があり、他の組織との切れ目ない、効率的・効果的な協働が必要です。そのためには、培われた「個人的な人間関係」が重要であり、Dr. Eldridgeは、震災時に、日米の知り合いや関係者をつなぎ、円滑な協働を生み出すことに尽力されました。
また「こうした個人的な関係を築き、将来における協働を生み出し、育てていく機会として、Crossoverは非常に良いモデルです」と、私たちの活動を高く評価して下さいました。

◆災害時の他国からの救援に関する日本政府の認識について
Dr. Eldridgeは、海兵隊が日本の災害対応に協力したのは東日本大震災における「トモダチ作戦」が初めてではなく、古くは米国海軍が協力した1923年の関東大震災に始まり、戦後間もない1948年の福井地震、1959年の伊勢湾台風、そして1964年の新潟地震等、長きに亘る実績があることを紹介されました。

しかし、1964年の新潟地震以降、1995年の阪神淡路大震災まで約30年の間、大きな災害が無かったことから、日本の危機管理は脆弱になってしまっていた、と指摘されました。このことは、Dr. Eldridgeが神戸大学大学院生時代に被災者の一人となり、また復興ボランティアとして救援活動に参加した阪神淡路大震災において、日本政府が海外からの支援受け入れに多くの時間を要したことに表れていた、と振り返られました。

この時の経験を踏まえ、Dr. Eldridgeは2006年から災害対応における海兵隊と日本政府・自衛隊との迅速な協力を可能とするための相互支援協定の必要性を多くの政治家、政党に説いて回りました。激震災害発生時であっても他国は主権国家である被災地国政府の要請がなければ軍隊を派遣して支援活動を行うことはできませんが、事前に協定を結んでおけば、必要なプロセスを大きく短縮し、迅速に活動を開始することができます。
しかし「日本だけでできる」という考えばかりで、海外からの救援が必要とは考える人は皆無であったそうです。Dr. Eldridgeは、2011年の3月10日、まさに震災の前日にも、総理官邸に対して同様の提案していたものの、それは受け入れられないまま、東日本大震災は起こってしまいました。
もし協定が事前に締結されていれば、アメリカ海兵隊が活動を開始するまでに1週間ではなく、2,3日でできたのではないか、とDr. Eldridgeは述べられました。

◆日本の災害対応について
Dr. Eldridgeは多くの課題があったものの、「ともだち作戦」が最終的に成功に終わったのは、日本の優れた社会基盤のお蔭であったと指摘されました。具体的には、①パニックに陥らず秩序を保つ国民性、②迅速に医療やボランティアが提供される社会的インフラの強さ、③自衛隊の能力の高さ等を挙げられました。特に、自衛隊については、被災地で活動する多くの隊員が東北出身であり、彼らもまた被災者である可能性が高いにもかかわらず、素晴らしい活動ぶりであったと高く評価されていました。もしこれらの要素が、多くの途上国のように一つでも欠けていれば、より混沌とした状況になっていたと思われるとのことです。こうした基盤の上で、アメリカ海兵隊の活動が位置づけられるだろうと話されました。
一方、課題についても紹介いただきました。まず、自衛隊については、彼らの国内における活動は素晴らしい一方、他の組織、具体的にはアメリカ海兵隊との協働については、改善の余地が大いにあったということです。アメリカ海兵隊は、東アジアにおいて、スマトラ沖地震への対応を始めとして、他組織と協働して災害対応にあたる豊富な経験がありますが、自衛隊はその能力を十分に把握し、活用したとは言えないと指摘。この点について、アメリカ海兵隊の幹部は「今回の災害対応では、我々の能力の1%程度しか発揮されなかった」と述べたとのエピソードも紹介されました。
Dr. Eldridgeは、その原因として、日本政府及び自衛隊が、アメリカ海兵隊の能力を十分に理解していなかったことを挙げられました。また、双方の意思決定や作戦の立て方の違いについても指摘されました。自衛隊は事前に綿密に作戦を立て、また想定される結果も事前にシナリオを作ったうえで、それに則して上意下達で活動が展開される一方、海兵隊は、作戦の前提となる仮定や想定の一つ一つをその都度議論し、検証していくプロセスがあるということです。

ここで参加者から、「自ら立てた前提や計画に縛られてしまう」という多くの組織に見られがちな傾向が海兵隊の間には見られない背景について、質問がありました。これに対してDr. Eldridgeは、「海兵隊は独自の養成学校を持たず、理論先行ではないこと」、「メンバーの多様性が確保されており官僚組織的な意思決定がなされにくいこと」を理由として挙げられました。一方、自衛隊については、ほとんどの幹部は防衛大学校を卒業しており、均一の環境の中で育ち、意思決定に関する多くの前提が共有されてしまっていることから、独創的な思考や議論は難しいのではないか、と指摘されました。

自衛隊海兵隊の協力について
このように、東日本大震災におけるアメリカ海兵隊の活用は必ずしも十分ではない部分があったにせよ、自衛隊との協働は、故君塚栄治大将の指令の下、海兵隊自衛隊が、その属人的つながりによって相当程度円滑になされていたことを示すエピソードを共有してくださいました。

Dr. Eldridgeは沖縄海兵隊勤務当時に、東日本大震災時の自衛隊の指揮官であった君塚大将と知己を得たそうです。またアメリカ海兵隊のGlueck司令官は日本駐在経験が4回あり、君塚大将とは旧知の仲、そしてスマトラ沖地震に対応した経験もありました。そんなGlueck司令官が日本に異動してきたのは東日本大震災の発災2ヶ月前であったということです。そのように豊富な経験があり、かつ、自衛隊の指揮官と旧知の仲である者がこのようなタイミングで海兵隊の司令官として異動してきたことは奇跡と言える、とDr. Eldridgeは振り返られました。

◆今後の課題ついて
Dr. Eldridgeは次の大災害に対する備えとしてについても、考えを述べられました。
冒頭指摘されたとおり、個人的な人間関係を広く構築していくことがまず大切であるとのことです。そのため、Dr. Eldridgeは高知県和歌山県三重県静岡県等の自治体や、病院や消防職員との公式・非公式なネットワークを築いています。海兵隊との協働について働きかけても反応が鈍い場合には、これまで築いてきたネットワークを活かし、その自治体選出の有力政治家の影響力にも頼ることで望ましい結果を得ることが出来た、とのエピソードも紹介して下さいました。
また、海兵隊が救助・支援に当たった気仙沼大島の被災者を、他の自治体の災害対応担当者とつなげるべく、被災者による講演会を沖縄で開催するなど、人と人をつなげるような活動も精力的にされているとのことです。この中では、自治体の災害対応担当者は、災害発生時には、自分自身及びその家族が被災者となる一方で、同時に災害対応にも当たらなければならないことから、日常的に訓練されていることが重要であることなどが共有されています。
さらに、外国人留学生についても、彼ら彼女らに災害対応の知識があれば、バイリンガルとして被災外国人の誘導や、外部からの支援の受け入れに大きな役割を果たすことができると指摘されました。

◆Dr. Eldridgeが出版されている書籍ついて
最後に、Dr. Eldridgeが執筆又は翻訳された本を紹介していただきました。
一冊は、小説家である高嶋 哲夫氏が書いた震災関係の書籍の英訳版である「Mega quake 」です。日本の東日本大震災における対応について書かれたこの書籍を英訳することで、①途上国など災害対応が未熟な国に教訓を活かすこと、②国際機関・組織が日本の特性を理解し、それにより来たるべき救援を円滑にすること、を目的としているとのことでした。
さらに、今回の講演のテーマである東日本大震災関係として、「次の大震災に備えるために―アメリカ海兵隊の「トモダチ作戦」経験者たちが提言する軍民協力の新しいあり方」、「トモダチ作戦 気仙沼大島と米軍海兵隊の奇跡の“絆"」の2冊を紹介してくださいました。特に後者については、まだ2月に発売されたばかりですが、今回の講演で語られなかった各関係者との調整の内実を含め、Dr. Eldridgeの当時の活動内容が詳細に記されているとのことです。
なお、Dr. Eldridgeはご自身の震災関連の著作の印税を原資に、「大島っ子の夢と将来基金」を設立、教育、文化、スポーツ、国際交流等の分野で気仙沼大島の子どもたちの活動に支援をする団体や個人に補助金を交付する活動も展開されています。

会場は、リーダーシップ、先見性、献身、そして忍耐力を持ってトモダチ作戦を成功に導いてくださったDr. Eldridgeと米国海兵隊の皆さんへの心からの感謝の気持ちを込めた大きな拍手に包まれました。


今回も株式会社クリックネット社長の丸山剛様、並びに社員の皆様のご厚意で、セミナー会場として同社が主宰する「まなび創生ラボ」をお貸し頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。有り難うございました。