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ZESDA's blog

日本の技術と世界のニーズをつなげるプロデューサーの支援・育成を通じて日本企業のグローバル競争力の強化を目指すNPO法人ZESDAのブログです。

プロデューシング・システムを創ることで、日本経済の活性化を目指す、NPO法人ZESDAのブログです。


産学連携が成功するための条件とは何か 〜イノベーションと企業家(アントレプレナー)、その可能性の中心〜

先週、政策研究院大学にて、2月20日(月)の18:30より、研究イノベーション学会・主催、ZESDA・共催により、第3回 ブロデューサーシップ論と実践(“個人・若者・女性活躍時代”「プロデューサーシップ論」講座)が開催されました。

産学連携の現状と問題点、その可能条件等について、伊藤正実先生(群馬大学研究・産学連携推進機構教授)と、西村吉雄先生(元日経エレクトロニクス編集長)の両先生をお迎えし、大変貴重なお話を賜りました。

伊藤先生(「産学連携による価値の創出をめざして〜その陥穽と克服への道程〜」)、吉村先生(「産学連携の現状と課題」)のそれぞれのご講演を拝聴し、当ブログ記事の筆者なりに、産学連携についての多岐にわたるお話全体のごく一部分ではありますが、特に触発された問題点について整理しました。

産学連携について、より理解を深めるために、筆者なりに、以下の二つの問いを立ててみました。

⚪️第一の問:そもそも産学連携の目的は何であるのか。

⚫答:産学連携の目的はイノベーションの実現である。

※以下の説明は、主に西村先生のご講演内容から気付いた点について纏めたものです。

イノベーションの正確な定義について、改めて捉え直す必要があります。なぜならば、イノベーションとは技術革新のことである、との一般的通念が広く流通しており、しかし、それはイノベーションについての正しい理解ではないからです。

イノベーションとは、科学や技術とは直接の関係はありません。研究成果や技術革新は、それだけではイノベーションとは言えません。

イノベーションは社会経済上の概念として捉えるべきものであり、それがイノベーションという言葉に含まれている正しい意味・内容だからです。

イノベーションを実現するためには、新たなノウハウ、斬新なアイディアなどの新知識(未来の価格体系)を、競争相手よりも先に知るということ、つまり「知」が必要です。しかし、それだけでは、十分ではありません。現実の市場(消費者)に、新たなノウハウ、斬新なアイディアなどの新知識により創造された魅力的な商品やサービスを送り届ける者、つまり「媒介」する者が必要です。この市場への媒介行為を実行する経済主体が企業家(アントレプレナー)と言われる者です。

経営学の祖であるP.F.ドラッカーは、イノベーションについて以下のように述べています。

“Entrepreneurs innovate. Innovation is the specific instrument of entrepreneurship. It is the act that endows resources with a new capacity to create wealth. Innovation, indeed, creates a resource.”

「企業家(アントレプレナー)はイノベーションを行う。イノベーションは企業家に特有の道具である。イノベーションは富を創造する能力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を創造する。」
(ドラッカー著「イノベーションと企業家精神」、上田淳生訳、p8、ダイヤモンド社)

イノベーションを実現するためには、「知の創造」と「市場への媒介」の双方の効果的融合が不可欠です。「知の創造」を大学が担い、「市場への媒介」を産業界が担います。典型的にはこれら二者による産学連携によってイノベーションの創出が可能となります。

世界のイノベーションの歴史を振り返ると、「知の創造」は1920年頃まではエジソンのような個人発明家が、1920年代から1980年代にはナイロンの発明がブームの発端となって大企業の研究所が担いました。そして1980年代から現在においては、シリコンバレーに代表されるようにベンチャー企業と大学の連携によってイノベーションは実現されています。このようにイノベーション史をあらためて捉え直すと、現在の時点では、一般にイメージされるところの「大企業付属研究所によるイノベーションの達成モデル」は過去の観念であることが理解されます。

日本のイノベーション政策では、このイノベーションの概念が、大抵の場合、技術革新それ自体のみに限定されたものとして誤解されて理解されており、それが主因となって企業家(アントレプレナー)ではなく、大学等の研究・技術開発への支援(「知」への支援)に偏ってしまっているのが実情です。しかし、イノベーションが「知の創造」と「媒介者」との協働により実現されるものであるならば、むしろ支援を更に強化すべきなのは媒介者である企業家(アントレプレナー)であることは明らかです。特に国や金融機関等による資金援助、融資制度等をはじめとした企業家(アントレプレナー)への支援状況がかなり不足していると言わざる得ません。

⚪️第二の問:産学連携における企業側の制約条件は何であるのか。
⚫答:産学連携の目的がイノベーションの実現であるならば、「媒介者」は管理経営型企業(再生産管理型企業=非企業家)ではなく、企業家(アントレプレナー)でなければならない。

※以下は、主に伊藤先生のご講演内容から気付いた点について纏めたものです。

現在の日本の産業界は、当然のことながら全ての企業が企業家(アントレプレナー)的な性格をもつわけではありません。既存事業の管理経営型企業がほとんどを占めます。管理経営型企業は、再生産管理型企業であり、新規事業の開発はほとんど行わずPDCA型改善のみにしか関心がありません。※脚注1を参照

ここで改めてP.F.ドラッカーの企業家(アントレプレナー)の定義を確認してみましょう。

“Entrepreneurship rests on a theory of economy and society. The theory sees change as normal and indeed as healthy. And it sees the major task in society — and especially in the economy –- as doing something different rather than doing better what is already being done.” Drucker,”Innovation and Entrepreneurship” p25

「企業家精神の原理とは、変化を当然のこと、健全なこととすることである。
企業家精神とは、すでに行っていることをより上手に行うことよりも、全く新しいことを行うことに価値を見出すことである。」
(ドラッカー著「イノベーションと企業家精神」、上田淳生訳、p3、ダイヤモンド社)

“The entrepreneur always searches for change, responds to it, and exploits it as an opportunity.”  Drucker,”Innovation and Entrepreneurship” p28

「企業家(アントレプレナー)は、状況の変化と、その変化への効果的な対応と、変化をチャンスととらえ、その効果的活用について常に意識している。」
(筆者訳)

伊藤先生は、ご講演の中で、企業家(アントレプレナー)のみが産学連携が可能であり、当該企業が産学連携が可能な企業かどうかは、以下のような問いを立てることにより明らかとなる、と述べられました。

(1)企業に新規事業創出や既存事業の高度化の意欲があるのかどうか?
(2)企業の経営資源に余裕があるかどうか
(3)経営者の人柄、資質(特に中小企業の場合)
(4)大学側のパフォーマンスを理解・評価できるか?
(5)大学の文化をある程度理解できているか。
(6)事業全体のプランを主体的に企画できるかどうか?
   ・新規事業創出のための研究開発に対して主体的に取り組めるか?
    (大学に研究開発を丸投げはできない)
   ・大学側に“やって欲しいこと”をきちんと説明できるか?

以上のように産学連携が可能な企業の条件を挙げられた上で、主に、企業内における研究開発体制の有無と売上規模から、現状の企業をカテゴリー1から3に分類されました。

【カテゴリー1】
専任の基礎研究に従事する研究者が在籍している売上高3,000億円以上の大手企業。

【カテゴリー2】
基礎研究を充実化させるよりも、研究開発部門には、主に商品化可能な実用的領域での技術開発などに取り組む技術者等を配置する。売上高20億円から3,000億円程度までの大手、中堅企業。

【カテゴリー3】
研究開発に専従している職員がいない場合が多い。売上高20億円以下の中小企業。

伊藤先生は、当該企業が企業家(アントレプレナー)的性格をもつ企業かどうかや、企業規模等の諸々の制約を客観的に整理・分析すれば、ある程度、日本での産学連携のためのストーリー・イメージをより明確に描くことが可能である、と提案をされました。

西村先生は、世界のイノベーション史において現在は如何なる歴史段階にあるのかを考察した場合、アメリカでは、まさに1980年代以降、インテルに代表されるように、ベンチャー+大学の産学連携によりイノベーションが実践されている、という現状を述べられました。特に、歴史的に偉大なイノベーションを達成したインテルは、かつての企業付属研究所モデルではなく、実際の工場での技術者による生産ライン上での試行錯誤と、解決すべき問題が発生した都度毎のきめ細かな企業と大学の研究室との相互連携によりイノベーションを実現させました。インテルの成功は、<ベンチャー+大学>の産学連携の代表的な事例です。

演者お二人のご講演の後、主に日本の政治経済、文化、歴史などの特性を踏まえた効果的な産学連携はいかにあるべきかというテーマについて、来場された聴講者の方々を交え活発な質疑・議論がなされました。

※脚注1
 PDCA型改善と、イノベーションとの違いについては、以下のブログ記事を参照。
 「ZESDイノベーション研究ノート(1)メタエンジニアリングが、エンジニアリングとは根本的に異なる点についての考察」
zesda.hatenablog.com