ZESDA's blog

グローカルビジネスをプロデュースする、パラレルキャリア団体『NPO法人ZESDA』のブログです。

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Mr. Charles Spreckley (People Make Places 創始者、トラベルコンシェルジュ)より 「人が場所を作る ~ 「上質」が日本の観光ビジネスの鍵」 Platform for International Policy Dialogue (PIPD) 第27回セミナー開催のご報告

NPO法人ZESDAは、「官民恊働ネットワークCrossover」(中央省庁の若手職員を中心とする異業種間ネットワーク)との共催、株式会社クリックネット まなび創生ラボ株式会社自由が丘パブリックリレーションズの協力により、在京の大使館、国際機関や外資系企業の職員、及び市民社会関係者をスピーカーに迎え、国内外の政治・経済・社会問題について英語での議論を通じて理解や問題意識を高める、「Platform for International Policy Dialogue (PIPD)」を開催しています。


6月24日(金)の朝7:30から9:00までの時間帯で開催した第27回PIPDセミナーは、海外の主に超富裕層をターゲットに、日本への観光旅行をアレンジするコンシェルジェ・サービス「People Make Places」を創設・運営されているMr. Charles Spreckleyをゲスト・スピーカーとしてお招きし、「People make places – why quality, not quantity is Japan’s best tourism solution(人が場所をつくる-日本の観光業の鍵は「量より質」?)をテーマにディスカッションを行いました。

なお、今回も株式会社クリックネット 社長の丸山剛様、並びに社員の皆様のご厚意で、セミナー会場として同社が主宰する「まなび創生ラボ」をお貸し頂きました。この場をお借りしてお礼申し上げます。有り難うございました。

「人は、あなたが言ったこと、したことは忘れる。しかし、あなたにどんな気持ちにしてもらったかは決して忘れない。」(People will forget what you said. People will forget what you did. But people will never forget how you made them feel.

「人を中心とするアプローチ」を柱としてコンシェルジェ・サービスを提供してきたSpreckley氏は、ご自身が最も影響を受けたアメリカの詩人・歌手であるマヤ・アンジェロウの言葉をプレゼンテーションの冒頭で紹介されました。

「お客様が時々、『何でかよく分からないけれど、凄く幸せな時間だった』と伝えてくれることがあります。私は相手にそう思ってもらうことこそ「もてなし(hospitality)」だと考えています」と語るSpreckley氏は、ご自身が創り上げた書籍そして携帯アプリのコンテンツを織りなす、様々な空間と、その空間を作る人を巡る物語を紹介していきました。

例えば、西麻布交差点近くの「すし匠 まさ」店主の岡正勝さん。四谷の名店「すし匠」の親方で師匠として尊敬する中澤圭二氏の元で修行後、「のれん分け」の栄誉に預かった岡さんは、左利きという鮨職人にとってのハンディキャップを凄まじい努力で克服。今は、7つしかないカウンター席に囲まれながら、師匠の姿勢を受け継いで一つ一つの瞬間に妥協無く挑み続けている・・・。

江戸時代から続く鰻の老舗「五代目野田岩」の金本兼次郎さんは、秘伝のタレを決して絶やさない。地震が起これば自分や家族の身の安全よりも、まずタレの入った壺の無事を確認するために厨房に飛んでいく・・・。

銀座でアート・ギャラリーを構える小柳敦子さんは、「マーケットのために働くのではない。規模を追求するのでもない。小さくとも確かな幸せを誰かに届けたい、そんな想いを持ったアーティストと長く続く関係を創るのが私の幸せです」と語る・・・。

印象的なストーリーと写真でセミナー参加者を惹き付けながら、Spreckley氏は、ご自身が日本で観光業に関わることになったきっかけを共有してくれました。それは全く偶然の産物だったそうです。18歳だったSpreckley氏がバックパッカーとして初めて出会ったアジアは中国でした。その時隣国である日本には、関心を抱くも訪れるチャンスが無かったとのこと。その後ひょんなことから日本に訪れ日本でジャーナリストとして雑誌等の編集に6-7年関わっていました。その間、日本への観光に興味を持つ友人から多数の問い合わせを受けたことから、トラベル・コンサルタントとして独立する道を選んだそうです。

当初は顧客を選ばず安価なサービスを提供していたSpreckley氏でしたが、東日本大震災を経て観光客が一切なくなってしまったそうです。そんな中、その年の後半に、とある中東の王族の家族旅行が彼の元へ飛び込んできました。彼らの望みは、観光客向けに作られた場所を訪れるのではなく、日本固有の独特の体験をすることでした。このお客様をきっかけに、「オンリーワンでプライベートな、そして忘れがたい想い出を日本で得たい」と願う「一日当たり100万円」を使うことも厭わない超富裕層に特化したサービスへと自身のビジネスモデルを転換していったそうです。

Spreckley氏がPeople Make Placesで紹介するのは、たとえ日本語が分からなくても、そこで時間を過ごせば、場を創る職人やアーティストの拘りや人生が伝わってくるような、場所であると言います。開発したアプリ版のPeople Make Placesでは、顧客が「知る人ぞ知る隠れ家的な場所」をタクシー運転手に示す際の助けになる、簡易な日本語でのナビゲーションサービスも付いています。

規模は小さくとも印象的な場所を海外の富裕層顧客に紹介するに当たっての、Spreckley氏の最大の悩みは、顧客が旅程を急に変更して夕食等の予約を直前でキャンセルすること。People Make Placesが紹介するレストランは、上で紹介した「すし匠まさ」のように5―7席のカウンターしかないようなお店が多い。こうしたお店にとって、3-4席の予約の直前キャンセルは経営上のダメージが大きい。しかしSpreckleyさんは、「本当の損失は“お金”ではなく“信頼”である」と言います。レストランの経営者やシェフ、職人さん達は、今宵訪れるお客さんが忘れがたい時間を過ごせるよう、精魂を込めて食材を調達し調理に臨んでいる。「たかがレストランの予約」という発想で安易に直前キャンセルをすれば、こうした想いを踏みにじることになる・・・。Spreckleyさんは、お金には換算できないこうした背景を顧客に説明することで、突然のキャンセルを止めてもらうよう説明を試みているそうですが、なかなか伝わりにくいことが悩みだそうです。

また、最近、日本が「年間2,000万人の外国人の日本旅行者」をターゲットとして国を挙げて「Visit Japan Campaign」を展開していることについて、「数字が一人歩きすることで、“日本を特別な場所たらしめている何か”を失うリスクがある」と憂慮されているとのことです。他方で、京都等のよく知られた観光地が外国人でいっぱいになることは、奈良や和歌山等の近隣の、余り知られていないが素晴らしい土地が、海外の観光客に知られやすくなるチャンスともなる、との期待を示されました。その関連で、和歌山県が独自のツアーガイド資格をつくり、同県に馴染みの深い外国人もこの資格を活用して、外国人観光客が和歌山県を楽しめるよう「水先案内人」の役割を果たしていることが紹介されました。

プレゼンテーションの締めくくりにSpreckleyさんから、参加者全員に、「People Make Places」の書籍が贈られました。アルバムのように立派な本を開くと美しい写真や人々の表情が背景にあるストーリーと共に綴られています。思いがけないサプライズ・プレゼントに会場は歓声に包まれました。

プレゼンテーション後には、「超富裕層のみに焦点を絞ったサービスとする理由」や「コンシェルジェとして仕事をする上での最大の喜び」、「現在の日本政府による訪日観光客増加策を成功させる上での課題」等についての質問が出されました。また、「People Make Places」のコンテンツを充実させるために、参加者一人一人が「特別だ」と感じた「忘れがたい場所」を2-3人でペアとなって話し合い、Spreckleyさんをはじめ会場全体と結果を共有し合うグループワークも行いました。